Contents
医療の発達と同時に、医療ミスが深刻な問題となっている
つい先月(2016年5月)も、かの有名な英国医学雑誌BMJに次のような論文が発表された。
“Medical error—the third leading cause of death in the US”(米国の死因第3位である医療ミス)

Makary, Martin A., and Michael Daniel. “Medical error—the third leading cause of death in the US.” BMJ 353 (2016): i2139. http://www.bmj.com/content/353/bmj.i2139
論文によれば、2013年のデータを検証した結果、全米で年間251,454人が医療ミスが原因で死んでいると見積もられたそうである。これはICD(国際疾病分類)上の死因である、第1位の心疾患、第2位のがんに次いで第3位の死因に相当するとのことである。医療の技術が進歩して最先端の治療で多くの人が救われるようになった結果、“ミス”による“防ぎえた死”の占める割合が浮き彫りになっているのである。
参考:英国The Guardian誌記事(https://www.theguardian.com/society/2016/may/03/cause-of-death-united-states-medical-error)、日本語翻訳記事(http://gigazine.net/news/20160529-medical-error-death/)
医療ミス・医療事故に関する報道は絶えない
この1か月、国内だけでも数々の報道がメディアを騒がせた。
“首の骨を削って腰の骨を移植する頚椎(けいつい)椎間板ヘルニアの手術で、手術する部位を誤る医療ミスがあった” (岐阜新聞2016年5月31日)
“看護師が点滴装置の電源を切ったままにしていた” (朝日新聞2016年6月9日)
もちろんどうしようもない事件も多いだろうし、医療者側意見としては「そうはいっても…」という内容のものもあるのかもしれないが、単純なミス(ヒューマンエラー)が死を招いてしまっているケースがあるのは事実である。次の表は、厚労省が医療者に対して確認を呼びかけている、年間の医療事故情報を集約した報告書から抜粋したもので、医療事故の要因種別とその割合が示されている。
日本発、最先端の「スマート治療室」が果たす役割
先週6月16日に日本医療研究開発機構(AMED)から「スマート治療室」が公開され話題になった。モノのインターネット化(IoT)技術を用いて様々な医療機器を連携させ、術中の診断と治療に役立てるといい、そのプロトタイプが東京女子医大に、基本モデルが広大病院に導入されたという。
参考:国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース(http://www.amed.go.jp/news/release_20160616.html)
いったいこの技術がどう手術に役立つのだ?、IoTがなんだかよく分からないがなんでも最新技術を導入したらよいというわけではないのでは?、などという考えも多いと思う。
しかし、膨大な術中情報の管理をコンピューターが支援して術者の把握を容易にしたり、スタッフ間の連携や情報共有をするうえで、この技術が果たす役割は大きいだろう。「スマート治療室」が医療事故を防止する一助になるのではないだろうか。また、手術中のデータを蓄積することで、たとえミスや事故が発生しても、データを解析してその後の防止に役立てることもできるだろう。
まとめ
今日は、医療事故の現状と、それを解決する糸口となりうる新技術を紹介した。様々な技術を駆使して医療の諸課題を改革していくことが、今後益々求められるだろう。我々若い世代は広い視野を持って、将来改革に携わらねばならない。
文:岡山大学医学部医学科5年 大塚勇輝